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神戸地方裁判所 昭和58年(ワ)1069号 判決

原告 十河千昌

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 小沢秀造

同 高橋敬

被告 兵庫県

右代表者知事 貝原俊民

右指定代理人 平田重巳

〈ほか四名〉

被告 社団法人兵庫県交通安全協会

右代表者会長 瀧川勝二

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 中原和之

主文

一  被告兵庫県及び被告社団法人兵庫県交通安全協会は、原告松本悠紀子に対し、連帯して、金二五〇〇円及びこれに対する昭和五八年八月三一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一二分し、その二を被告兵庫県及び被告社団法人兵庫県交通安全協会の連帯負担とし、その一を原告松本悠紀子の負担とし、その余を原告十河千昌、原告澤辺香及び原告林ハツミの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各原告に対し、各金二五〇〇円及びこれに対する昭和五八年八月三一日(但し、被告石原幸長については、同年九月一日)から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら三名)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(被告ら)

(一)  兵庫県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は、運転免許申請を受け付け、運転免許を与える権限を有する被告兵庫県の機関である。

(二)  兵庫県警察本部長は、被告兵庫県の公権力の行使にあたる公務員である。

(三)  被告石原幸長は、被告社団法人兵庫県交通安全協会(以下「被告安全協会」という。)の代表者である。

2(講習の実施)

兵庫県警察は、昭和五八年七月一日から、被告安全協会内の兵庫県二輪車安全運転推進委員会をして、原動機付自転車(以下「原付」という。)の運転免許の申請者を対象とした安全技術講習(以下「講習」という。)を行わせた。

3(原告らの受講申込みによる損害)

原告澤辺香及び原告林ハツミは、昭和五八年七月一日、明石市西新町三丁目七―六田中サイクルにおいて、原告十河千昌は、同月九日、明石市所在の運転免許試験場内の被告安全協会明石交通安全指導事務所において、原告松本悠紀子は、同日、尼崎市潮江二丁目五―一一久保自転車店において、それぞれ講習を受けるべく申込みをし、講習料として各金二五〇〇円を支払った。

4(強要)

原告らの右各支払は、いずれも、兵庫県警察及び被告安全協会の強要による。

5(被告らの責任)

右の支払の強要は、被告兵庫県(警察)及び同安全協会の組織的活動によるものであるから、両名は民法七〇九条、七一九条により、また、被告石原幸長は、同安全協会の代表者として民法四四条、七一九条により、原告らの被った前記損害を賠償する義務を負う。

二  請求原因に対する認否

1のうち、(一)及び(二)は認め、(三)は否認する。2及び3は認める。4は否認する。5は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の(一)及び(二)並びに2及び3の各事実は、当事者間に争いがない。

二  免許の付与と講習との関係

講習を、原付免許の申請あるいは付与の要件と定める法令は存在しない。

しかしながら、《証拠省略》によれば、兵庫県警察本部長は、昭和五八年六月に、同年七月一日以降は原付免許試験の受理は講習の修了者(以下「受講者」という。)に限ること及び講習を修了していない者(以下「未受講者」という。)には免許を交付しないことを原則とし例外についての取扱い方に言及しない内容の講習の強化に関する一般的計画を樹立し、被告安全協会とともに、原付免許試験の申請者は必ず講習を受けなければならない旨を、報道関係者に発表し、新聞広告を掲出し、運転免許試験場の出入口あるいは申請受付窓口付近に看板を掲示するなどして、一般県民に周知させたこと、試験場の窓口の対応においても、講習が受験の要件かとの問いに対し、何よりまず自分のためだと考えて講習を受けて下さい等とのみ答え、要件ではないことを明確に答えない回答例を用意して、右一般的計画を実施させたこと、そのため、県民の多くが講習を受験の要件と誤解して右一般的計画の実施される直前に原付免許の受験者が殺到したことが認められ、すると、兵庫県警察及び被告安全協会は、共同して、法令に何ら根拠を有しない講習を、事実上原付の免許試験の申請あるいは免許証の交付の要件とする体制を樹立して昭和五八年七月一日から実施し、予め県民一般にその旨周知させたと言うことができる。

三  《証拠省略》によれば、原告松本は、昭和五八年七月一日、明石試験場において、原付免許試験の申請をしたところ、試験場の担当者から未受講者であることを理由にその受理を拒絶されたこと、そのため、原告松本は、やむなく請求原因3記載の講習料を支払ったことが認められる。

四  以上に見た兵庫県警察及び被告安全協会の共同しての前記一般的計画の実施及び試験場での取扱いを総合すれば、これを原付免許を受けたい原告松本に対する講習の受講の強要と評価することができる。

五  以上は、被告兵庫県の公権力の行使に当たる公務員たる警察職員が、その職務を行うについて、被告安全協会の職員と共同して、故意によって違法に原告松本に金二五〇〇円の損害を加えたというほかないから、国家賠償法一条一項、四条、民法七一九条により、被告兵庫県は、原告松本に対し、被告安全協会と連帯して、右損害を賠償する責任を負う。

六  被告安全協会は、組織ぐるみで被告兵庫県の前記支払の強要に加担したものであるから、民法七〇九条、七一九条により、原告松本に対し、被告兵庫県と連帯して、前記損害二五〇〇円を賠償する責任を負う。

七  その余の原告に対する金二五〇〇円の支払の強要を認めるに足りる証拠はない。

八  被告石原が被告安全協会の代表者であること(請求原因1(三))を認めるに足りる証拠はない。

九  よって、本訴請求は、原告松本が被告兵庫県及び同安全協会に対し、連帯して金二五〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条一項本文、但書、九二条本文、八九条を適用し、仮執行の宣言は相当でないので付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 井上薫)

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